カナダ経済は本当に危ないのか? 米国との貿易摩擦、雇用、そしてトロント住宅市場を現地から考える

【SPECIAL REPORT|2026 カナダ経済・不動産】
カナダ経済は本当に危ないのか?
米国との貿易摩擦、雇用、そしてトロント住宅市場を現地から考える



カナダに戻ってきて、今回は住宅価格を見る前に、まず経済そのものを見てみようと思いました。

ニュースではGDPの回復が伝えられる一方で、街を歩き、実際に商売をしていると、それほど景気が良くなったようには感じられないからです。

私はカナダで長く暮らし、現在もカフェを営んでいます。

だからこそ最近、ひとつ気になることがあります。

統計の中の景気と、暮らしの中で感じる景気には、少し距離があるのではないか。

そして今、その距離をさらに広げる可能性があるのが、米国とカナダの貿易摩擦です。

関税の問題は、国境を行き来する商品の話だけではありません。

企業のコスト、雇用、家計の消費、住宅市場へと、私たちの暮らしにつながっていきます。

では、2026年9月現在のカナダ経済は、本当に危機に向かっているのでしょうか。

最新の数字から、少し冷静に見てみたいと思います。


カナダ経済は、本当に危ないのでしょうか

数字だけを見ると、カナダ経済が崩れているとは言えません。

カナダ統計局(Statistics Canada)によると、2026年第2四半期の実質GDPは前期比0.8%増。年率換算では約3.3%の成長となりました。

輸出は3.6%増え、住宅投資も2.5%増加。1人当たり実質GDPも1.0%上昇しています。

数字だけなら、確かに「回復」です。

ところが、雇用を見ると少し違った景色が見えてきます。

8月のカナダの雇用者数は前月から約4万2,000人減少。雇用率は60.8%へ0.1ポイント低下し、失業率は 6.4%でした。

オンタリオ州でも雇用者数が約1万8,000人減っています。

つまり今のカナダは、

回復の兆しは見える。けれど、その回復がどこまで続くのかは、まだ分からない。

そんな位置にいるように思います。


数字は回復。でも、街で感じる景気は少し違う

ここは、統計だけでは見えにくい部分です。

私自身、カナダでカフェを営んでいますが、現場で感じる景気は決して軽やかではありません。

以前よりも、お客さんがお金を使うことに慎重になっているのでは、と感じる場面があります。

店を営む側も、人件費や食材費、家賃など、さまざまなコストを意識せずにはいられません。

もちろん、一つの店で感じることをカナダ経済全体に当てはめることはできません。

それでも、GDPが伸びたからといって、その温かさがすぐに街の小さな店や家計に届くわけではないのでしょう。

統計の景気と、暮らしの景気には「時差」がある。

最近は、そんなことを感じています。




なぜ米国との貿易摩擦が、カナダにとって重要なのか

カナダ経済を考えるうえで、米国との関係を避けて通ることはできません。

長い国境を共有し、自動車、エネルギー、食品、製造業など、多くの産業が国境を越えたサプライチェーンで結ばれています。

だから関税が増えると、その影響は輸出企業だけにとどまりません。

企業の調達コストが上がる。

利益が圧迫される。

設備投資や採用に慎重になる。

そして雇用や所得への不安が強くなれば、家庭も財布のひもを締めるようになります。

その先にあるのが、住宅です。

関税 → 企業コスト → 投資・雇用 → 家計所得 → 消費 → 住宅市場



国境で始まった変化が、やがて私たちの暮らしまで届く。

今回の米加貿易摩擦を見るとき、私はこの流れがとても重要だと思っています。


企業も、関税の影響を意識し始めています

カナダ統計局が2026年第3四半期に行った企業調査では、32.2%の企業が、今後12カ月に米国の関税からマイナスの影響を受けると予想しています。

特に製造業では49.7%、運輸・倉庫業では47.3%、卸売業では45.1%に上りました。

さらに、過去12カ月に関税によるコストを顧客価格へ転嫁した企業は27.4%。今後12カ月に価格転嫁する可能性があると答えた企業も30.4%あります。

これは私たちの生活とも無関係ではありません。

企業が負担しきれないコストの一部は、やがて商品の価格やサービス料金として家計に届く可能性があるからです。


それでも、カナダには別の動きもあります

一方で興味深い変化も見えています。

2026年7月、カナダの米国向け輸出は前月比6.6%減少しました。

しかし米国以外への輸出は7.4%増え、過去最高の256億カナダドルとなりました。

特に農産物などでは、中国、日本、パキスタンを含む市場への輸出拡大も見られます。

もちろん、これだけで米国市場を置き換えられるわけではありません。

むしろ重要なのは、

「米国との関係を大切にしながら、ほかの市場への選択肢も増やしていく」

という方向ではないでしょうか。


金利だけでは、住宅市場は動かない

住宅を考えるとき、どうしても金利に目が向きます。

カナダ銀行は9月2日、政策金利を2.25%に据え置きました。

金利が落ち着けば、住宅購入者にとっては確かにプラスです。

しかし、住宅市場を動かすのは金利だけではありません。

仕事が安定しているか。

収入が続くという安心感があるか。

数年後の経済に希望を持てるか。

住宅は人生でもっとも大きな買い物のひとつです。

だからこそ、人は金利が少し下がっただけでは動きません。

「これからも払っていける」と思えたときに、初めて家を買う決断がしやすくなる。

今のカナダ住宅市場では、金利以上に「雇用」と「安心感」が重要なのかもしれません。


トロントの住宅市場に、変化の兆しはある?

では、実際のトロントはどうでしょうか。

TRREB(Toronto Regional Real Estate Board)によると、2026年8月のGTA住宅販売件数は5,057件。前年同月比では2.1%減少しました。

一方、新規売り出し物件は1万2,075件で、前年より14.1%減っています。

MLS住宅価格指数のベンチマーク価格は前年同月比4.5%下落。

平均売却価格は99万3,410カナダドルで、前年より2.7%低い水準でした。

価格だけを見ると、まだ弱い。

しかし、ここで注目したいのは「売り物件の増え方」です。

新規物件が大きく減り、在庫の圧力が弱くなってくれば、買い手優位だった市場のバランスが少しずつ変わる可能性があります。


コンドミニアムは、さらに慎重に見たい

トロントでは、特にコンドミニアム市場を別に考える必要があります。

2026年第2四半期のGTAコンドミニアム販売件数は4,783件で、前年同期比8.8%増えました。

一方、平均価格は63万4,972カナダドルで、前年同期比7.5%下落しています。

つまり、

価格は下がっているのに、取引は少し戻っている。

さらに新規リスティングや在庫も前年より減少しました。

これは市場が底を打ったという意味ではありません。

ただ、価格・取引・在庫がそれぞれ違う方向に動き始めていることは、今後を見るうえで重要な変化だと思います。


では、トロントの住宅価格は「底」なのでしょうか

ここで一番難しい質問です。

私なら、今の段階で「底を打った」とは言いません。

不動産の底は、株価のチャートのように、その日に印がつくものではないからです。

振り返って初めて、

「あの頃が底だったのかもしれない」

と分かることのほうが多いものです。

だから私は、底の「日付」よりも、いくつかの変化を一緒に見るほうが大切だと思っています。

価格の下落幅が縮まっているか。

取引が継続して戻っているか。

新規物件や在庫が減っているか。

雇用が安定してきたか。

住宅ローン金利が落ち着いているか。

そして、米加貿易摩擦がこれ以上悪化していないか。

今は、

「底だと宣言できる段階ではない。でも、底を確認するためのサインを一つずつ見ていく時期」

なのではないでしょうか。




家を買うなら、「底当て」より大切なこと

実際に住む家を探している人なら、完璧な底値を当てることよりも、自分の生活条件を見るほうが大切です。

7年、10年と住むつもりなのか。

頭金を払ったあとにも十分な生活資金が残るか。

住宅ローンの負担が少し増えても耐えられるか。

そして何より、収入が安定しているか。

条件の良い家を無理のない価格で買えるのであれば、「あと3%下がるかもしれない」と待ち続けることが必ずしも正解とは限りません。

一方、投資用コンドミニアムなら話は別です。

家賃だけでなく、

住宅ローン
+ 管理費
+ 固定資産税
+ 保険
+ 修繕費

まで含めて考える必要があります。

毎月500カナダドルの赤字なら、年間6,000ドル。

毎月1,000ドルなら、年間1万2,000ドルです。

それを3年間続けても大丈夫なのか。

投資では、「価格が上がるはず」よりも、この問いのほうが重要だと思います。


売る人も、「戻るまで待つ」だけでは決められない

売却を考えている人も同じです。

急いで売る理由がなく、ローンや維持費にも余裕があるなら、市場が少し落ち着くまで待つという選択肢があります。

しかし、大きな赤字が続いている。

ローン更新が近い。

今の負担をあと1~2年続けるのが難しい。

そんな場合には、

「いつか価格は戻るだろう」

だけで持ち続けるのもリスクです。

こんな問いを自分にしてみると、判断しやすいかもしれません。

「もし今日、この家を持っていなかったとしたら、私は今の価格でこの家をもう一度買うだろうか?」

答えによって、見えてくるものがあるはずです。


これから1~3年、カナダはどうなる?

未来を一つに決めることはできません。

私は大きく三つの可能性を考えています。

米国との摩擦が続いても北米経済の基本的なつながりが維持されれば、カナダ経済は緩やかに成長しながら、輸出先の多様化を進めていくでしょう。

住宅市場も、まず取引が戻り、そのあと価格が安定していく可能性があります。

反対に、関税がさらに広がり、企業の投資や採用が縮小し、失業率が上がれば、住宅市場の回復にはもっと時間が必要です。

そして米国との協議が改善し、雇用が安定し、住宅在庫も減ってくれば、市場の安定は予想より早く訪れるかもしれません。

大切なのは、一つの予想に賭けることではなく、どの方向に数字が動いているのかを見続けることだと思います。


米国と良い関係を保ちながら、世界から必要とされるカナダへ

私は、カナダが米国から離れるべきだとは思っていません。

地理的にも経済的にも、米国はこれからもカナダにとって最も重要なパートナーの一つでしょう。

できることなら、隣国として安定した良い関係を築いてほしいと思っています。

その一方で、中国や日本を含むアジア、ヨーロッパなどとの経済的な選択肢も、もっと広げていく必要があるのではないでしょうか。

米国か中国か。

どちらかを選ぶ、という話ではありません。

米国とも良い関係を保ち、中国を含むアジアやヨーロッパとも実利的に協力できるカナダ。

資源、エネルギー、食料、技術、人材。

カナダには世界から必要とされる可能性のあるものが、まだたくさんあります。

一つの国への依存を減らすというより、世界の中でカナダ自身の選択肢を増やしていく。

私はそんな国になってほしいと思っています。




おわりに|住宅価格より先に、「暮らし」を見る

今回、カナダに戻ってきて改めて感じたのは、住宅市場だけを見ても経済は分からない、ということでした。

GDPは回復している。

でも雇用には弱さが残る。

住宅価格は下がっている。

でも在庫には変化が出始めている。

そして、統計が改善しても、街の小さな店や家計がそれを実感するまでには時間がかかります。

だからこそ今は、

「家はいつが底か?」

だけを考えるのではなく、

「自分の仕事と収入は安定しているか」
「この住宅費を長く負担できるか」
「数年後もこの家を持っていたいと思えるか」

そんな生活の側から考えることが、より大切なのではないでしょうか。

経済の数字は変わります。

金利も変わります。

住宅価格も変わります。

でも最後に守らなければならないのは、私たち自身の暮らしです。

その視点だけは、数字がどちらに動いても忘れずにいたいと思います。


データ基準日:2026年9月4日

※本記事はカナダ経済および住宅市場について公開統計をもとに考察したもので、特定の不動産の購入・売却を推奨するものではありません。


#カナダ経済 #米加貿易 #トロント不動産 #カナダ生活 #住宅市場

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